島根発、デジタル一眼レフカメラを使いこなす驚異の子どもたち

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コドグラファーコドグラファーの”ひなた”。彼はゾーンに入ると天才的な集中力を発揮する。

 2012年の11月は島根を旅し、多くの人に会う機会に恵まれた。1本目の記事は、島根県益田市匹見町に居を構え「コドグラフ」を推進する中村こどもさん。


 子どもたちがデジタルカメラで写真を撮る。そう聞くと、ほとんどの人はコンパクトデジカメでシャッターを押すだけと思うだろう。一方、子どもたちの感性の素晴らしさを理解出来る人は、大人には撮れない珠玉の一枚が偶然混ざることを知っている。

 今回紹介する「コドグラフ」は、そのどちらの固定概念も打ち破る写真教育のメソッドである。そして、ものを見る力や考える力、伝える力を育てることが出来る。子どもたちはプロレベルのデジタル一眼レフを使い、基礎的な撮影技法を教わる。ホワイトバランス(色味の設定)、シャッタースピードや絞りによる描写の変化、ISO値の特性、フォーカスエリアの動かし方・・・ 全自動のカメラが調整してくれる要素を敢えてマニュアルで覚えることで、光を読み、対象と対話する能力が磨かれる。

 主宰するのは、子ども専門カメラマンとして知られる中村こどもさん。東日本大震災を機に、祖父母の住んでいた同町に子どもたちと一緒に移り住んできた。

大人でも難しい専門的なことを中村さんが教える理由

コドグラファー
コドグラファーの”きーくん”を指導する中村こどもさん。手前は”あや”

 なぜそうした、大人でも難しいような専門的なことを教えるのか?

 あくまでも写真は、機器の操作の上に表現が成り立つ世界である。中村さんの言葉を借りれば、特に初心者にとって楽器のレッスンが反復を要求するように、写真の基礎も子どものうちから繰り返し習得させれば、その上に偶然ではない表現の可能性が広がるわけだ。

 しかもデジタルカメラは、撮影後すぐに確認が出来る。意味不明の暗記でなく、違いがすぐに分かるので、子どもたちも興味を失うことなく続けられるメリットがある。

 私が訪れた日も、コドグラフの「授業」が行われていた。地元の「コドグラファー」は、ひなた、きーくん、あやの3人。放課後、三々五々集まってきた。

 初対面の私と、まずは挨拶代わりにお互いを撮り合う。私もすぐに写真仲間として受け入れてもらえたようだ。当日一緒に撮った子どもたちの写真は、コドグラフのwebサイト「おかっぱさんやってくる。」に載っているが、レベルの高いこと!

田舎から始まったことが全国に通用するということを証明したい

コドグラファー

 中村さんは、いわゆるIターンになるが、島根と東京を頻繁に往復する二拠点居住の実践者である。機材を愛車に積み、島根と東京を行き来する。11月は一ヶ月の1/3が東京だったという。決して田舎に引きこもっているわけではない。

 コドグラフは、東京や全国各地で展開を始めている。その上で、この取り組みが島根という田舎から始まったことが重要だと中村さんは言う。「東京だとニッチで特殊と思われる。田舎から始まったことが全国に通用するということを証明したい。」

 地元・島根の町おこしをしたいのかという問いに対して、中村さんは、町おこしによくある、主客転倒の問題を指摘した。「Uターン・Iターンを狙うなら、例えば教育改革をして、わざわざそこに子どもを通わせたい学校をつくるなど、新規の取り組みによって結果的に町おこしに繋がることが大事なんです。」

クリエーターの立場から、身軽に動ける環境を構築

コドグラフ
日が暮れ、今日のベストショットを先生に見せるコドグラファーたち

 中村さんは総じて田舎暮らしを過度に理想化せず、クリエーターの立場から、身軽に動ける環境を構築しようとしているようだ。田舎の問題点・難しい点を聞いたところ、田舎で頑張ろうとする個人や企業のビジネスをNPOがさらっているのでは?との疑問を呈した。NPOのような形態では認められるのに、営利目的の活動だと支援を得られないことが多々あるという。「その土地のビジネスを育成しない限り、町おこしは有り得ません。」

 また、田舎では個人間のリアルの繋がりはあってもネット上に繋がりに乏しい。そのため、若い人が新しいことをしようとしても、都会ほど簡単には人が集まらないことが悩みだそうだ。


 ともあれ、先生も生徒も、本当に楽しそうに写真を撮っている姿は見ていて気持ちがいい。3人のコドグラファーの写真はコドグラフのサイトで見られる他、気に入った写真はオンラインでの購入も可能である。私もコドグラファーたちに会って、すっかりファンになった。中村さんはワークショップのためにデジタル一眼レフを10セット所有し、出前授業にも対応している。写真家として、私もコドグラフがもっと広まって欲しいと思う。興味のある人は是非中村さんまで連絡してみて下さい。

残りの取材写真はFlickrにアップしてあります。