ズワイガニのブランド化に一石を投じるコンテンツマーケティングの宿

公開日: 著者:
羽衣荘の茹で蟹

 山陰・北陸地方の日本海側では、11月から3月にかけてカニのシーズンが訪れる。中でも冬の味覚の王様ばズワイガニだ。ズワイガニは、水揚げされる漁港・地域によって呼び名が異なり、水産資源のみならず観光資源としてブランド化が進んでいる。それらは、水揚げ後、定められた一定の品質の物に漁港や船などの「ブランドタグ」が付けられることで、高級食材としての価値を守っている。それぞれズワイガニと異なる種のように思われることも多いが、あくまでも「ズワイガニ」である。

ズワイガニの地域ブランドの一例
 |– 松葉ガニ:島根県から京都府
 | |– 間人ガニ(たいざガニ):京都府の間人港
 | |– 津居山ガニ:兵庫県の津居山港
 |
 |– 越前がに:福井県
 |– 加能ガニ(かのうガニ):石川県

 ところで、我々が東京や大都市で食べるカニは、産地でボイル・冷凍されたものが大半だ。生物学的な種としては、海を隔てたロシアや朝鮮半島で水揚げ〜ボイル〜冷凍〜輸送されてもズワイガニで、私たちはそれを美味しく頂いている。

 しかし、もし、産地で食べる蟹が例えば「産地の蟹」とか謳われながら、他地域・他国からの冷凍品だったらどうだろうか? 今年も産地・食材の偽装がまた話題になった。逆に、どこで食べても同じように美味しいのであれば、産地に来て食べる意味はあるのだろうか?

「活き蟹」一筋20年の宿でナマの蟹味噌を食べる

生の蟹味噌

 この蟹のブランド化と表示について一石を投じる宿を訪ねた。京都府の最北部・京丹後市にある「琴引浜一望の宿 地魚・活松葉蟹こだわりの宿 羽衣荘」は、冷凍のズワイガニを一切使わず、「活き蟹」を長年提供し続けている料理民宿である。

 私がこの宿を知ったのは検索から。検索方法は「冷凍を一切使わない 宿 活き蟹」。こんな検索方法をする人がいるか分からないが、「美味しい蟹 宿」という検索では、蟹を扱うほとんどの宿がヒットする。しかし、「冷凍を一切使わない」と言い切れる宿がどれだけあるだろうか。さらに、検索でヒットしただけでは判断出来ない。その先に見えるウェブサイトの内容が大事だ。羽衣荘の蟹や料理に対する姿勢を十分理解してから、予約をした。

 羽衣荘では、地元の活き蟹だからこそ提供できる生の蟹味噌が食べられる。蟹味噌が生で食べられることを私は初めて知った。見た目は決して良くないが、生食ではツルッとウニのような食感でふわっと口に広がる。甲羅で炙ると濃厚な味に変化。〆は日本酒を注いで・・・ そして蟹肉もあの独特の臭みが全くない。

 羽衣荘は、今から約20年前、冬に「活き蟹」を食べさせる料理民宿としてリニューアルした。だが、ただの活き蟹ではないと、オーナーの北垣譲さんは強調していた。これまでに多くの試行錯誤を重ね、今この地域では蟹を見る目が最も厳しいと自信を見せる。

時代が追いつき、コンテンツマーケティングの先駆者に

ウェブも担当する北垣さん

 10年前「50の手習いで始めた」というインターネット。実際、ウェブサイトは洗練とは程遠い。しかしこれが私には好印象を与えた。皮肉だが、もし見栄えの良いサイトであったら、表面の取り繕いが目立ち、せっかくの中身が嘘っぽく見えただろう。外見を度外視したことで、かえってコンテンツが際立っていた。ウェブサイト担当の息子さんによると、いろいろな勉強会にも足を運んだが、結局自分たちでコツコツとページを作り上げたらしい。

 トップページには、『冷凍ズワイガニの足を一本でも使用していれば、お代は一切頂きません!』と書かれ、「活き蟹」へのこだわり、宿の設備としては不十分なところもあると、正直に宿の特徴が書かれている。日々コツコツと書かれている蟹への取り組みが、東京から片道6時間という行程を思い立たせるわけだ。

 昨今話題のマーケティング手法が「コンテンツマーケティング」である。その第一人者として有名なインフォバーンの成田幸久氏によると、

コンテンツマーケティングとは、適切で価値のあるコンテンツを作成し、配布するテクニックである。ターゲットとなる見込み客を明確に定め、理解することで、見込み客を惹きつけ、獲得し、関係を持ち、購買に結びつけることを目的とする。
「コンテンツマーケティングとは、恋愛戦略である」〜インフォバーンが語る、人を惹きつけるコンテンツ、7つのポイント – Six Apart ブログより)

 同氏が語るキーワードをこの宿に当てはめると、
・見込み客:本当に美味しい蟹が食べたい人、その流通の仕組みが分かっている人
・意外性:蟹味噌が生で食べられる
・信頼性:冷凍ズワイガニの足を一本でも使用していれば、お代は頂かないという姿勢

 冷凍がダメだと言っているのではない。『この宿のこだわり=蟹の産地である=活き蟹』を頑なに追及し、素朴ながらも発信し続ける。テレビで放映されたことも大きいが、ファンやリピート客は、リアルの口コミ、ネット上の口コミで出来ているという。

 この地域の民宿街を歩いて回ったが、どこよりも羽衣荘が賑わっていた。20年掛け知らず知らずのうちに、羽衣荘は究極のコンテンツマーケティングを実践していたのである。(了)


関連する記事