これからの「自治」のために公・共・私が果たす役割 – 信岡良亮さん

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信岡さん信岡良亮さん。中小機構が大手町に開設した新たな事業創出の場「TIP*S」にて(撮影:本田正浩)

 finderは2015年3月29日に開催されるCivic Tech Forum 2015のメディアスポンサーとなりました。その事前取材として、主たる登壇者へインタビューを行いました。
 地域活性に興味のある人であれば誰もが知っている島根県海士町の「巡の環」信岡良亮さん。7年弱居住した海士町を離れ、2014年6月に帰京。同社の社外取締役として関わる一方、都市と農村の関係からそれぞれの問題解決を図る活動をしています。Civic Tech Forum 2015では、公と共とITの役割をテーマに登壇します。(インタビュアー:伊藤友里 取材日:2015年3月)

これからの時代の共のあり方

 都市農村関係学というゼミを開いている信岡さん。田舎の問題も都会の問題はリンクしており、都会と田舎を一緒に考えることの重要性を提唱している。しかし本人は教える立場ではないと謙虚だ。ゼミの幹事長をイメージして欲しいという。海士町での経験から少しだけ早くこの問題に関わっているが、解決してはいないため、一緒に考えようという姿勢だ。

 さて、公=Public 私=Private 共=Common(s) というところから信岡さんは話を進めた。欧米では個人から始まり、その上に公ができて、その間に共がある。一方日本ではまず共があり、その次にお上としての公、最後に欧米から私という文化が入ってきたという構図だ。その中で、共は『私たち』という自治できる範囲であり、そこに信岡さんは可能性を感じているという。

 「地域活性系の文脈でいくと、人口減少に伴い、規模の経済で動いている公共サービスが維持できなくなるという問題があります。すると合併という話になるんですが、行政が合併すると公共サービスが行く届かなくなるんですね。それをしないと、もっとヒドいことになるというのはあります。でも、そもそも「公共サービス」というのは不思議な言葉じゃないですか? 公というのはサービスとして成り立つけど、共は自分たちのためのものなのに、サービスになるのはおかしいんじゃないかなと。

 なぜこうなってしまったかというと、これは僕なりの仮説なんですけど、明治維新が大きなきっかけだったと思っています。江戸時代は合衆国システムのような藩の中での村という単位。税金を村単位で納めるシステムで、共同責任という共がベースにありました。でもこれだと日本国としてまとまらないから、明治政府は税収方法を村単位から個人単位に変えたんです。それと同時に、水道や清掃といった共が担っていた部分を公が引き受けることとなりました。

 その結果、共を自分たちで養う能力が僕らにはなくなり、そこを代わりに担ってきた存在が実は会社なんですね。村単位での納税に代わり、会社単位での納税。終身雇用システムや充実した福利厚生は、村のようなものです。

 経済成長している間は会社が共として成立できたけど、今や公も人口減少で弱くなり、共も担い手がいなくなり、私も四苦八苦しています。新しく共を作り直すために自治していくための方法を探りたいなと。共とは、ほとんどコミュニケーションのことだと思うので、そこにハードでもソフトでもテクノロジーが活かされると思っています。

 会社の共は契約によって、地域コミュニティとしての共は生まれた場所で一緒に住んでいくことで。僕らはさらにテクノロジーを使って横展開し、同じ未来を見ている人が繋がれる共。実際の場所でなく指向性で繋がれる場所を作ることで、新しい共が作れるんじゃないかと思うんです。」

自治のためにサブシステムを持つこと

 ここからは信岡さん、インタビュアーの伊藤さんに自治・IT・コミュニケーションのあり方について対談してもらった。

 「あまだねくらぶ」という、海士町版のTwitterとFacebookの中間のようなツールを運用しています。TwitterやFacebookは全国をつなぐ高速道路で、たくさんの人が使うと見ていられなくなるんです。なので、この地域のための環状線としてのSNSが欲しいと思って作りました。

 3.11の事故以降、僕の中で自治というのが大きなテーマになっています。政策や電力、メディアにしても自治していないものが多く無力感に苛まれました。

 自分たちの暮らしの様々な制度に対して自治する感覚を持つことが、自己肯定感を高める大事な要素だと思っています。例えば、Facebookが有料になったら全員コミュニケーションコストが倍になるし、個人情報抜かれても他の選択肢がない。自分たちのための情報ツールを持つことに、僕は自治の根幹があると思っています。

 当初はグループウェアを使っていても、結局Facebookグループに移行したという事例をたくさん見てきました。どうやってユーザーをアクティブにさせようとしていますか?

 そこは悩んでいます。ソフト面の部分は人間関係なので、どんな大企業にも負けない。ハードはシステム面での投下が必要なので、Facebookでできちゃうと言われると最初はぐうの音も出ないですよね(笑)。

 メインシステムの他にサブシステムを自分たちで持つことは、自治の感覚と環境変化が起きた際の代替案として、両方の意味があると思っています。

 サブを持つことが、リスク回避のための付加価値になりますね。サブというのは電力などのライフラインもそうですよね? 常に自分たちでまかなえる何かというか。

 僕らが次に考えないといけないのが効率化というテーマです。これまでの効率化は、規模の経済が一番機能しやすいやり方だったと思います。結果、都会にある利便性が全てになってしまう。サブシステムは分散型の話、ミラーリングしていくようなイメージですね。規模の経済に対して、小規模でも運用できる別の軸のサブシステムを持たないといけないんじゃないかと。

 サブシステムとしてさらに必要なのは、働き方の部分です。今は1社に所属するシステム。そこが潰れると自分の居場所が消えるんですね。

 これまで私自身、潰れそうになったり、大量解雇を経験したりした会社にいました。1社に依存する生活は、仕事=人生のようになっている人が多い日本の社会の中では、自分の生きること自体が失われることになります。

 3社くらいに所属して週2日ずつ働く。その理想は、資本主義ベースの働き方、自分の暮らしに紐付くための働き方、地域やコミュニティのために役立つNPO的な働き方。目的別の働き方をもう少し明確にしてもいいと思うんです。

 地域性・経済性・人間性というバランスの視点を働き方に置き換えた感じですか?

 それぞれに得意な人がいて、海士町の人から教わったのは、自然と向き合うとこうした価値から逃れられないということです。土臭い人の価値ってもっと高いと思うけど、経済性の中では埋もれやすい価値なんです。

テクノロジーの根幹としてのコミュニケーション

 テクノロジーという時に思い浮かべることが2つあって、ハイテクノロジーの部分では、通信速度やコストの改善によって多くの人の参加ハードルが下がることは重要ですよね。もう一つはローテクノロジー、つまりコミュニケーションの部分から考え直してもいいと思っています。

 僕らが教わってきたコミュニケーションは、プレゼンや論理的思考能力など、いかに早く進むかが中心でした。でも、どうやって一緒に楽しくするかという共感性のコミュニケーション技術も大事だと思っています。人に対する評価判断を保留して、その人が何を必要とし、どんな気持ちでいるかを聴くことから始めましょうというもの。それをやっていくと、打ち合わせは長くなるんですが、プロジェクト自体は早く進むんです。

 白黒ハッキリ付けて結論を出す方が物事早く進みそうですけど、逆のアプローチの方が結果早く進むということですよね。

 ミヒャエル・エンデの『モモ』に「遅く進む方が早く進む通路」というのがあって。モモがカメと一緒に泥棒から逃げていくシーンで、モモがゆっくり行けば行くほど早く進み、泥棒たちが急げば急ぐほどモモが遠ざかる通路があるんですね。昔読んだ時はフィクションだと思ってたけど、最近、実際にあるなあと思うことがたくさんあります。

 今僕自身がこうした不思議な仕事で成立しているのも、遅く行くためのコミュニケーションばかりをやっているからです。お互いがどんな未来を見ているかとか、それに向かって何をしているのかという話をすることが結構多くて。

 そこを握っていると、後から少しずれても一緒に行ける感覚がある。僕と阿部(編注:「巡の環」の共同創業者・代表取締役の阿部裕志氏)の関係でも、未来として握っているものは同じ。そのプロセスの中では、毎回の環境やお互いの経験によって優先順位や選択肢は変わるけど、行きたい未来は一緒。長く行くために一緒に行こうと握れるから、成立することがたくさんあるんです。

 それは会社のミッションというより、個人としてどういった人になりたくてどんな未来が見たいかという話。自分のWillをそれぞれ持ち寄って、一緒にやれることがあればやればいいし、ないならそれは保留しておけばいいだけなんです。(了)

ctf-logo1 Civic Tech Forum2015
公共とITの新しい関係〜シビックテックの課題と可能性〜
日付:2015年3月29日 場所:科学技術館(東京都千代田区)
主催:CIVIC TECH FORUM 2015 運営委員会
スケジュールや申し込みは、公式サイトhttp://wired.jp/special/ctf2015/にて

信岡さん・伊藤さん