【CTF2015】だれでも参加できる、社会をつくる取り組み

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講演する滑川里香(マチのコトバ徳島)氏 Photo by Mika Suzuki @civictech forum(CC-BY)

【特集】CIVIC TECH FORUM 2015

 CIVIC TECH FORUM 2015(2015年3月29日開催)特集として、本イベントの運営委員や各セッションの企画担当者”コンテンツチェア”に振り返り記事を書いてもらった。文章に加え、動画・写真・グラフィックレコーディングを合わせ、セッションの概要から詳細まで把握できる構成になっている。

・講演:だれでも参加できる、社会をつくる取り組み
・登壇:滑川里香(マチのコトバ徳島)、和田翔(地域振興アドバイザー)、市川望美(ポラリス)
・文章:伴野智樹(CIVIC TECH FORUM 2015・事務局長)

登壇者の設定理由

 シビックテックというキーワードを耳にすると「アプリ開発」「オープンデータ」「ハッカソン」等という、最近旬なキーワードを想像する方も多いのではないだろうか。だが、一つ前の「ローカルコミュニティを育てる」でもCode for Aizuの藤井さんが話をしていたが、「明日からできるような小さなことで、まずは地域の方とのコミュニケーションを増やしていくことがシビックテック活動としても重要」である。この講演では3人の登壇者に登場してもらい、それぞれ「身近」な課題を、誰でも比較的使える技術を使い解決しようと試みた事例を発表いただいた。

【講演1】「四国で一番小さな町、徳島県上勝町の取組み」

講演者:滑川里香氏(NPO法人マチのコトバ徳島代表理事)

 田舎過疎地域をなんでもいいから、元気にしてしまおうという活動をしている滑川さん。上勝町は人口1,700人ほどで半分以上が高齢者の町。産業の中心は「彩(いろどり)」と呼ばれる日本料理に添えられる「葉っぱ」(つまもの)。流通の約7割程度が上勝町より出荷されているという。200軒の農家、平均年齢70歳にて年商2.6億円の売上。年収1千万を超える世帯もあり、78歳のおばあちゃんもパソコンのディスプレイを2画面置き、市況のチェックや、特別注文をパソコンで受注している。自分の売上を得るためにパソコンやタブレットを使いこなす高齢者の方を「貪欲でしょ」と表現してみせた。

 世間的に見たら「地域活性」、「ICT利用」の好事例に見える同町だが、滑川さんは現在の課題を示した。それは、子育て世代の「教育」がないがしろになってしまっているということだ。12年前は2,000人程であった上勝町の人口は現在約1,700人となっており、流入が流出を上回ることがない。その要因の一つに教育の機会の問題がある。

 上勝町には高校がない。そのため都市部(徳島市)の寮がある高校に子供が一人で通う例が多く、以前はその時に発生する転出は実質「1名」であった。それが今ではターニングポイント(転出するタイミング)が早まり、高校受験のため塾に通わせる中学生になるタイミングで、世帯ごと高校と塾がある都市部に転出することが増えてきた(上勝町には塾も無い)。こうなると、一度の転出で1世帯まるごと出て行ってしまうことになる。

 教育問題が、町の人口減少や過疎化のスピードを早めてしまっているのだ。これらの解決には、過疎地教育に対して漠然とした不安を抱えている親世代の不安を解消してあげることが重要だと滑川さんは教えてくれた。

 ご自身の子供の教育問題に直面し、都市部の塾へ通う(車で往復2時間、塾は1.5時間)等試行錯誤をしてみたが、親も子もヘトヘトになってしまい、結果的に上手くいかなかったとのこと。そこで辿り着いたのが、ビデオ会議システムを活用し、現役東大生に勉強を教えてもらい、いつか東大生を輩出する「上勝東大塾」プロジェクト。必要なのは、TVモニタ、カメラ、集音マイク、PCのみ。毎週現役東大生に塾を行ってもらうオンライン塾である。

 最後に滑川さんは、「田舎では絶対にITは必要」と力強く話をされた。必要なのは分かっているが、「IT企業が入ってくる」ことは壁を作るきっかけにもなる。「地域への熱い思いを持っている」キーパーソンを探しや、一緒に地域に根付いて活動し泥臭く密接に関わっていくことが重要という。田舎では仕事1割、コミュニティ9割。自社の利益や売名がちらつくとすぐに信用を失ってしまう。出る杭はどんどん打たれるのが田舎。取り組む時は、ぜひ地域の方を主役にするようなカタチにしてほしい。地域のITの利活用によって、地域の方が得をしなければならない。地域の方が「得する」ことが一番重要だと締めくくった。

【講演2】井戸端スクリーン商店(idosk)の取り組み

講演者:元・佐賀県庁 経営支援本部市町村課 地域振興アドバイザー 和田翔

 和田さんは、総務省の地域おこし協力隊として佐賀県唐津市で2011年10月より活動を始めた。その取り組みの一つが、Skypeを活用したリアルタイム中継お買い物「井戸端スクリーン商店(idosk)」である。買物弱者の問題を解決するために辿り着いたこの事業について、当日の講演と事前インタビューの内容を織り交ぜて紹介をしたい。

 和田さんは、買物に不便を感じている人の課題解決に取り組んだ。最初は、移動販売店舗や「ルートバス」の活用などを検討していたが、コストの問題や公的機関内での調整を考慮し断念、身近にできることから始めた。

 最初に取り組んだのは、自分一人でできる電話による出張お買い物。「道の駅」で販売されている野菜等をチラシ(写真なしの白黒)にし、電話で注文を受け、代理で買物をして届ける仕組みにチャレンジした。だが、いざチラシを配ってみると、電話も鳴らず、注文も入らなかった。おかしいと思って集会所に行くと、写真なしでは何を買えばいいか分からず、これでは買物はできないと言われた。新たなコスト負担も難しい中で思いついたのがidoskだという。

 和田さんは、もともとITは苦手で、うろ覚えで記憶にあったUstreamを使ったらどうかという考えに至った。自分のパソコンと集会所にあった誰も使わない最新のプロジェクタ、同様に誰も使わない道の駅の無料Wi-Fi。それらを組み合わせ、費用をかけず、今あるもので揃えることができた。ほとんど無料でむしろ、誰も使っていない資源を有効活用できたことも奇跡的だったと和田さんはいう。

 何度か実施していくと、配信に最も良いのはSkypeであることや、集まる高齢の方も必ずしも買物を必要としておらず、周囲の方との交流のために来ていることが分かった。特に女性は近くには気軽に行ける喫茶店等もなく、「理由がなく集まるゆるい場所」がないことに不満を感じており、idoskはそのような交流の場としてはちょうど良かったとのことだ。

 ただの買物ではなく、人とのコミュニケーションが重要だと和田さんは感じたという。好評ではあったが問題は採算性。唐津のidoskは残念ながら継続できなくなってしまったが、取り組みはその後岩手県遠野市にも広がっている。(遠野市は予算を確保して事業運営)

 最後に印象に残ったインタビュー中の言葉を紹介したい。
 「地域に入るとたくさん課題がある。それを正攻法で解決しようとは考えない方がいい。それができていないから課題として残っている。お金がない、人手がないからこそ、自分はITにたどり着いた。」(和田さん)ITは様々な課題を解決する力を秘めている、ただそれは現場の課題と向き合い結果として得られることで、滑川さんの講演でも語られていた「地域に根付いて活動し泥臭く密接に関わっていくことが重要」であり、必ずしもハイテクノロジーを活用しイノベーションを起こすことではないのだ。

【講演3】「だれでも参加できる社会をつくる」〜セタガヤ庶務部の実践〜

非営利型株式会社Polaris代表取締役 市川望美

 前出の2件と異なり、最後のPolarisは都市部における子育て世代の「働き方」に関する課題を、クラウドやコミュニティの力を活用することで解決する取り組みである。また、今の子供達が大人になる時に、今ある職業の大半がなくなると想定される中で、親世代が自ら「新しい働き方」を模索し実践している。数々の取り組みの中から、主に「セタガヤ庶務部」の活動を紹介したい(一部事前インタビュー含む)

 セタガヤ庶務部とは現在200名程の女性が登録している、地域とクラウドを掛けあわせてチームで仕事をするという活動だ。データ入力、ウェブサイト作成やマーケティングモニターなど、企業などから受注した仕事を、やりたいメンバーが手を上げる。多くの仕事に手を上げる人もいれば、数件のみの人もいる。ただ、どんな仕事でも必ずメンバーがチームを組んで取り組むのが原則だという。ある私立中学校ではテストの採点を発注しているとのこと。近隣に住むメンバーたちが、その日の14時ごろまでに採点し、集計することで、教師が生徒の理解度を把握して夕方の補習授業に生かせる。

 セタガヤ庶務部の運営は以下のような流れで進んでいく。
1,説明会を開く(子供も参加できる)
2,Facebookグループに参加(仕事を紹介)
3,興味がある仕事を見つけたら手を上げてチームに参加
4,チーム内でクラウドベースで仕事を進め、情報共有、理解促進を図る

 子育て中のママにとって「働くこと」を選択するためには、色々なものが足りない場合が多いと市川さんはいう。まとまった時間をコミットできず、特別なスキルや経験を持たない多くの女性が、働きたいけれど働けないのが現状。特別なスキルを獲得するために活動する人もいるが、セタガヤ庶務部では「今はないこと」を価値にして、自分たちが普通であることの価値や可能性を活かす場として取り組んでいる。キーワードは「弱みを強みに変えてコミュニティベースで働こう」だ。

 地縁型コミュニティは限界に近くなっている。以前であれば同じような環境と境遇、同じような世代で、子供がいれば仲良くなれたが、今はそれが難しい状態である。セタガヤ庶務部は地縁型コミュニティの限界に対して、仕事という「テーマ」型のコミュニティ(仕事を通じてゆるいつながりを得る)にて補っているといえる。ITにより時間と空間の制限を超え、仕事を通じ特定多数の新しい信頼関係を築く。そんな未来の働き方が、世田谷という地域の女性の新しいコミュニティとともに誕生している。



 以上3人の講演より、「だれでも参加できる、社会をつくる取り組み」を紹介をした。「社会をつくる」と表現すると仰々しいと思われるかもしれないが、「共」の一部を少しでも担うという出来事はとても身近で起こっている。普段であれば見過ごしてしまう地域や身近な課題の中に、一人の市民として貢献できることがないか今一度見つめ直すことを講演者は教えてくれた。


動画

https://youtu.be/79CyL4VyRoE?t=6h34m4s(Civic Tech Forum 公式YouTubeアカウント)

グラフィックレコーディング

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ここに取り上げた以外のグラフィックレコーディングはFlickrでもご覧になれます。https://flic.kr/s/aHsk9XGMST